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二代「ロードスターVRリミテッド・コンビネーションA(NA8C)」

ロングツーリングに楽な車にしたい。

父親が使っている駐車場と入れ換える事も決まっていたので、車のサイズにこだわる必要もなかった。とはいっても、車両保険+αで買える金額、正確には100万前後が限界だったので、中古車に頼るしかなく、さまざまな車を見て回った。CR-Xやシビックあたりから始まり、RAV4とかのRV系まで見て回った。とにかく、カプチーノとは違う車でいこうと思った。
その中で一台、いいな、と思って話を進めた車がある。ユーノス500のマニュアル車だ。本当はもう一台、ランティスセダンの流麗なラインも好きだったが、こちらはどう探してもマニュアル車が見つからなかった。
ある程度話を進め、そこでオヤジの反撃にあった。家の前の駐車場が狭く、当時乗っていたスプリンターの全長4280mmでは縦列に入れるのが苦痛なのだ。実際、きっちりとは入らない。日常性を考えれば全長4mでも苦しいと思っていたのだから当然である。最初は家の前だから楽だと言って使っていたが、一ヶ月もしないうちに音を上げて、駐車場入れ替えの話は無しになった。
当然、ユーノス500の4500mmを超える全長は入らない。
一気に話は流れてしまい、選べる車種も全長4mまで、という条件になってしまった。

この頃になると、自分が車を選ぶ基準と言うのが見えだしてきた。
一つ、ボンネットが運転中に見えること。
一つ、エクステリアが綺麗なラインを描いていること。
一つ、走りが期待できる車であること。綺麗なライン、というのがクセモノで、これを求めだすと全長4m以内に納まる車種は無かった。それに、最初はどんな車でもいいと思っていたが、時間が経つに連れて、カプチーノのような車に乗りたい、という気持ちが膨らんでいった。

そんな頃。
ある中古車雑誌で、一台のロードスターを見つけた。ユーノスロードスター・VRリミテッド・コンビネーションA。
実をいうと、普通のロードスターにはとんと興味のなかった俺だが、この車だけは別だった。発売当時、ちょうど免許を取るころに発売されたこの限定車は、コンビネーションBと併売される珍しい限定車だった。このコンビネーションBは、学生時代からお世話になっている関東の先輩が新車で購入し、金があるなら俺がコンビネーションAを買って一緒に走りたいね、と言っていた車だったのだ。もちろん、カラーリングと内装のマッチングが綺麗で、車単体としても当時相当に惚れていた。いわば、憧れの存在だったのだ。

そのような訳で、尼崎の友人と二人でロードスターを見に行った。
くだんのVRリミテッドはちょっとシートがヤレていて、少しどうかな? という印象だった。それより困ったのが、隣にカプチーノが展示してあったのだ。正直、これには心が動いた。どちらも試乗させてもらったが、当然の様にカプチーノの方が手足のように走らせられる。即断が出来ず、結局どちらも見積もりを書いてもらって帰って行った。価格差はほとんど無かった。

一週間、悩みに悩んだ。
さまざまな理由を付けて、どちらかに選ぼうとした。
車庫の問題、税金などの維持費の問題、同じ車にするのか、憧れた車にするのか。特に、同じ車にするのか、という問題では、だったらなぜ前のカプチーノを意地でも修理して乗らなかったのだ、という気持ちになった。車の買い物はそう「失敗した」と買い換えられるものではないという気持ちが、余計に判断を鈍らせた。正直、体調が悪くなるほどだった。

一週間後、結局決めきらないまま中古車屋に行き、そこで決める事にした。もう一度両方を試乗し、悩みに悩んだ末に、憧れの車、VRリミテッドを選ぶ事にした。言ってからも本当に良かったのかと反芻したが、どうしても、カプチーノには出来なかった。

それから二週間後、車を引き取りに中古車屋に行った。
カプチーノはもう売れて無くなっていた。VRリミテッドには、店の人曰く「頑張っていいタイヤ履かせました」と、グリッドIIを入れてくれていた。前のカプチで事故った時のタイヤだ。踏ん張りはいいが、鳴くより先に滑るので、もう履くまい、と思っていたタイヤだった。まさに因縁だ、と笑った。友達にも笑われた。
VRリミテッドは、車庫にギリギリだった。しかし、意外と苦痛では無かった。幌屋根は扱いが面倒かと思ったが、内装も含めて買ってすぐにきっちり隙間の泥出しやワックスかけをしてやると、見違える様に綺麗になった。自分の手で憧れの車が憧れた色合いを取り戻していくのは、すごく嬉しかった。

ただ、中古車屋の整備不良と、マツダディーラーの対応には困った。買ってすぐにエンジンがかからなくなり、どうしたのかと思ったら、バッテリー端子が外れていた。5月になって暑くなり、ACを入れるととたんに熱風が吹いた。まいったと思いディーラーに行くと、ACを繋ぐハーネスが、カバーが外れていて濡れていたとかで、ドライヤーで乾かして、「これで走ってみてください」と言われた。
奥の方で整備士がえらくその営業の人に噛みついていたが、その時は理解できなかった。走り出してすぐに判った。車がまともに走ってくれない。1~2気筒死んでる様なありさまだった。しかし一端、渋滞している道路に出てしまった手前、バックも出来ず、ひたすら煽って繋ぎ、なんとかディーラーに戻った。営業の人は言う「やっぱり駄目ですか」さすがに腹に据えかね、無償修理させた。整備の人が「だって、あれ」と言っていたのは、この事だったのだ。

しかし、初期のトラブルさえ克服すれば、VRリミテッドは俺をとても満足させてくれた。特に良かったのが、気軽にオープンに出来る事だった。カプチーノのように三枚に分割してトランクに収納するのとは大違いだった。カプチーノでも慣れれば1分で出来るようになる、とネットで知り合ったオーナーさんには言われたが、最後まで自分ではそのタイムは出なかった。また、走り味もとても良かった。カプチーノのようにどこか危なっかしいまでに旋回するのとは違っていて、曲がる、止まる、がとても当たり前の様に気持ちよかった。エンジンの高回転域の吹け上がりだけはダルかったが。ただ、カプチーノから乗り換えた当初は、ボディの重さを実感していた。ブレーキングでフロントノーズがズシっとダイブする、その感覚が驚きだった。荷重をかけすぎてハンドルを切っても曲がらない時があった。今から思えば、当たり前の荷重移動が、当時は出来ていなかった。カプチーノに甘えていたし、カプチーノしか知らなかった。
夏には、関東の先輩とVRリミテッドコンビでツーリングも果たした。カラーリングでコンビネーションAとBとなっていたが、まさにその名前の通りになった。この時、車を交換してみたが、同じ車で同じノーマル車なのに、ずいぶんとペダルの感触が違っていてお互い驚いたのを記憶している。車の癖はあるのだと思った。

秋から冬にかけても走りまくった。
でも、どうしても物足りなかった。
この車は、俺を守ってくれている、危険を教えてくれている、と感じた。
この車の限界より手前で危険を知らせてくれて、安定した走りをさせてくれている感じだった。逆に言えば、限界を引き出す事が出来なかった。それはたとえばブレーキがロックしたり旋回中にオーバーやアンダーになるような単純な一つの限界ではなくて、これ以上はロードスターでは不可能だ、というような限界で、だ。
とても居心地のいい空間ではあったけど、なんだか違うな、と感じ始めたのはこの頃だと思う。

春、ロードスターの任意保険を払って、目を剥いた。
カプチーノの三倍の保険料がかかった。
正直、これは耐えられないと思った。毎日紙と電卓で計算しては、損益のラインを引っ張りだして、買い換え時期を見計らっていた。来年の車検までには買い換えよう、と腹を括った。
軽とは保険が違いすぎる、と回りに買い換えを考えていると言い出した。

5月3日。
ネットでIRC中に、新潟の友達に「すごい車あるで」とURLを教えてもらった。中古車情報WEBに繋がったそのページは、キャンディレッドに塗装され、まるで夢の様なチューニングを施
された、一台のカプチーノだった。

そんなすごいカプチーノ、きっとまともな状態じゃないに違いない。自分がやりたかった、馬力アップだけでなく冷却系まできっちり手を入れたカプチを見て、あぁ、この程度なんだ、と納得すればいいや、と思って見に行った。
店では、黙ってじっくり見させてくれた。試乗もOKだった。なんでも、見に来る人はたくさん居るんだが、誰も手を出せなくてずっとここにあるのだそうだ。車はトヨタのディーラーの整備士が趣味で買ってコツコツと手を入れていたが、トヨタ車を買わざるを得なくなり、泣く泣く売りに出したのだという。知り合いという事で軒に置いてると、整備手帳も見せてくれた。ずっとトヨタの整備が入っていた。ここにいけばオーナーに会えますよ、とも。

乗ったカプチは、とんでもなかった。まず、ハンドルが重い。そういや限定以外は重ステなんだ、と思い出した。そして加速。暴力的だった。事前にチューニングの内容を聞かされていたので、推定で80~100psぐらい出ていると思う。特にトルクが乗ってからはとんでもない加速感だ。そして曲がらない。まったくフロントが沈まない。ガチガチに足が固められていて、こんなの峠に持ち込んだらどこに飛ぶか判らない、と思った。おまけにスズキスポーツのロールゲージが入っていて、ただでさえ狭い室内はさらに狭くなっていた。おそらく170cm以上の人が乗り込めば、ゲージで頭を打つだろう。とんでもない車だった。こんな車、確かに誰も手を出さない。値段が100万近い事も拍車をかけた。チューニングの費用だけでそれぐらいはいってそうだが、だったらノーマルを100万で買った方が安全だ。全塗装されて輝く赤になっているのも尻込みさせる理由の一つだろう。
ロードスターの乗り味を知っていた俺としては、冷静に、このカプチはヤバイと思った。
逆に言えば、自分がやりたかった事の結果は、こういう事なのだ、と。

店の前にカプチーノを止める。
寄ってきた店のオーナーに声をかけた。
「この車、ヤバイっすよ」
「え? それってどういう」
「俺のやりたかったこと、そのままです。これ下さい」

値引き交渉もまったくしなかった。店側から引いてくれた。他にもフロントバンパーの傷みを全塗装してくれた。ロードスターは85万で売れた。
差額は高いパソコン一台分ぐらいしかしなかった。二年かからずに元がとれそうな値段だ。


VRリミテッドとは、一年強の付き合いだった。最後に鳥取の方まで走りに行き、そこで最高速をマークして、軽く自分の限界域まで攻めてみて、つくづく、この車は俺を守ってくれていたんだと思い知らされた。
懐が深く、裏切らないその走り。どこまでも自然な感じだった。

振り返って前のカプチーノを自分の分身だと表現したが、この車は、憧れだったと思う。
一目見たときから惚れて、一緒になっても、見た目通りの素敵で優しい車だった。
でも、素敵な人が、自分に合った人とは限らない。優しい人が好きになるとは限らない。
憧れと、一緒に居るのは違うのだ、と思った。
逆に言えば、一年付きあっても我が侭も言わせられなかった。ただただ、守られ、許された。
たった一つ、苦痛だった事は、その間自分が背伸びをしていた気分だった。
それだけだろう。

2002年、5月。
俺は、憧れを振り切った。

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